「稜君……んっ」

玄関に入ると同時に塞がれた、私の唇。

そのまま壁に押さえ付けるように、私の顔の横に手を付いた稜君は、何度も何度も、角度を変えながらキスを落とし……。

それが、どんどん深いものに変わる。


「――……っ」

その手がゆっくりと下に降りてゆき、私の腰を自分の体にピタリとつけるように抱き寄せる。


静かに離された唇。

向けられるその濡れた瞳に、私は思わず息を呑んだ。


「最上さんが、こうして美月ちゃんに触れてるの見た時……どんな気持ちだったと思う?」

フッと笑いながら、囁いた稜君。


「……え?」

突然の質問に戸惑いながらも、あの時の事を思い出す。

あの時の稜君は――いつも通りの稜君だったはず。


「わからない?」

何も言えないでいる私の首筋に、そっとキスを落とした稜君は、ほんの一瞬だけ、いつもの稜君に戻うと、少しだけ笑いながら言ったんだ。


「頭きて、最上さんのこと殴りそうになった」

「う……そ」

「嘘じゃないよー。俺、そんなに大人じゃないもん」

私の首に顔をうずめる稜君の、ふわふわの髪の毛が頬をくすぐる。


「美月ちゃん?」

「うん?」

「俺、きっと美月ちゃんが思ってるより、もっともっと美月ちゃんのこと大好きだよ」


――“だから、心配しないで”。

きっと稜君は、そう言いたかったんだと思った。


小さく頷いた私の瞳を見つめたあと、ちょっと困ったように“う~ん”と、上を向いて唸って。

「ここじゃ、風邪ひいちゃうね」

そう言って笑うと、そっと私を解放して、少しだけ距離を取る。


「多分、てゆーか絶対、部屋入ったら止まる自信がないから、もし気が変わってたらここで言って?」

どうしたのかと見上げる私の顔を、困ったような笑顔を浮かべて覗き込む。


「そんな事……聞かないで欲しいかも」

「あははっ! ごめんね。じゃー、遠慮なく」

そう囁いて笑った彼の顔は、やっぱり“大人の男の人”の顔。