抱き合ったまま、何も言葉を発しない私達の上を、また飛行機が飛んで行く。
今までは、綺麗で力強いその大きな機体が、無条件に大好きだったのに。
数ヵ月後、稜君がこれに乗って遠くに行ってしまうと考えたら、少しだけ息が苦しくなった。
私はきっと、これから飛行機を見る度に、空を見上げて切ない気持ちを抱くんだ。
もしかしたら飛行機雲にさえ、同じ気持ちを抱くのかもしれない。
「稜君?」
「うん」
今はこんなにも近くで聞こえるこの声が、どれだけ遠くなるんだろう?
「さっきは突き飛ばしてゴメン」
「ううん。俺も悪かったし」
稜君の少し冷たくなった唇に、私は背伸びをしてチュッとキスをした。
「これで、仲直り」
「……ケンカ、してたっけー?」
「あれ? してないかも」
おでこを付けたまま、クスクス笑った私達。
ねぇ、稜君。
私――もっと稜君の近くに、行きたいよ。
「稜君」
「なーに?」
「明日、練習は?」
「明日? 明日は午後からだけど……」
「お願いがあるの」
「……」
「もう少し一緒にいさせて」
同僚には悪いけど、明日は午前休を取らせてもらおう。
今夜はどうしても、稜君と一緒にいたい。
「意味、わかって言ってる?」
見上げる私の視線の先の稜君は、“男の人”の顔。
その顔は、やっぱり鳥肌が立つほど綺麗。
「うん……。わかってる」
――稜君。
もっと強く、あなたを感じたい。