「んーーっ!!」

稜君の言葉と、ちゃんと自分の気持ちを口に出来なかったせいで苛立ちが募り、唇を塞ぐ稜君の胸を突き飛ばすように押し返す。


「――こんな誤魔化すようなマネしないでよ!!」

「美月ちゃん」

唇が冷たい空気に触れた瞬間、大きな声を上げた私とは対照的に、稜君は静かに私の名前を呼んだ。


「美月ちゃん。最後まで聞いて?」

そう言った彼の声は、やっぱりいつもより少し低くて。

その声と瞳に、私は言葉に詰まって黙り込む。


そんな私の目の前で、何故か笑った稜君は、

「順番が悪かったね」

そんなよくわからない言葉を口にした。


「順番?」

「俺、美月ちゃんのこと誰にも渡す気ないから。もし、美月ちゃんが淋しくて耐えられない時は、ちゃんと一番早い方法で帰ってくる」

「……一番、早い方法?」

「うん。だから、さっきの話は俺の力が足りなかった時の、最後の決断として憶えておいて欲しいってこと」

「……」

「美月ちゃんが、俺のせいで笑わなくなるのは耐えられないから」


その切ない声に、いつの間にか私の頬を涙が伝い落ちていて、稜君はそれをそっと拭ってくれた。


「わかった?」

そのままちょっと首を傾げて、私の顔を覗き込む。

――稜君。

どうしたら、私の今の気持ちを上手に伝えられるんだろう。


「そんな決断」

「え?」

「絶対しないから」

「……」

「稜君こそ、ちゃんと憶えておいてっ!!」

半ば八つ当たり気味な強い口調のまま、背中に回した腕に力を込めた私を、ギューッと抱きしめ返した稜君は、

「うん。憶えとくよ」

ほんの少しだけ笑いながら、そう言ったんだ。