「すごく素敵な人だとは思うけど、多分“憧れ”に近いのかなぁー」
「“憧れ”?」
「うん。仕事に対する姿勢とか、人柄とか」
その気持ちは、私もよくわかるんだけど……。
「あとは、航太に対していつも真っ直ぐなところとか。すごく憧れる」
今、こうして目を細めた稜君の頭の中には、きっとおねぇーがいて、「違う」って言っているのに、それでも彼女を羨む気持ちを抱いてしまう。
そんな自分が本当に自分がイヤになる。
「あと“大切な人の妹さん”っていうのの“大切な人”には、美青ちゃんもそうだけど、航太も含んでるよ?」
「えっ!?」
「言ったでしょ? 俺、航太の事が好きだって」
「う、うん」
「航太は俺の恩人なんだよ。だから、本当に大切な存在なんだ」
「え? 恩人?」
「そっ! まぁ、それはいつか話すとして」
何かを思い出すように、少し懐かしむような表情を見せる稜君は、また確認をするように私の顔を覗き込んだ。
「美青ちゃんの事も納得?」
「……うん」
稜君の好きな人が、おねぇーじゃない事はわかった。
でも心の中は、正直複雑だ。
だって、それでも稜君には好きな人がいるんだもん。
――“他に相手のいる”、誰か。
「ん?」
ついじっと見上げてしまった私に、稜君が優しく声をかける。
「聞きたい事あるなら、ちゃんと聞いて?」
その声にまた胸が苦しくなったけれど、この機会を逃したら、自分からはもうそれに触れられない気がしたから、勇気を出して口を開いた。
「でも……好きな人、いるんだよね?」
「……」
何も答えないままじっと私の目を見据える稜君に、喉がゴクリと音を立てる。
「ごめん、やっぱりもう一個だけ質問させて?」
「え?」
緊張でちょっと冷たくなった指先を握りしめた私の耳に届いたのは、稜君の突然の申し出で。
戸惑う私の目の前で、少し躊躇するように顔を顰めをしたあと、フーッと息を吐き出して言ったんだ。
「翔太くんの事は、何とも思ってないんだよね?」

