ベンチに腰掛けた私達の間に、小さな沈黙が流れる。
「ちょっと聞いてもいい?」
それを先に破ったのは稜君で、私の顔をヒョコッと覗き込んだ。
「う、うん」
一体何を聞かれるのかと、ほんの少しだけ落ち着きを取り戻していた心臓が、再びドキンと跳ね上がる。
「ん~、何から聞こう」
だけどそんな、緊張で手汗までかいている私の隣では、色々と聞く事があるらしい稜君が、イマイチ緊張感のない唸りながら上を向いている。
「さっきの“素敵な彼女”っていうのは……?」
「え?」
「もしかして、さっき病室に居た人の事?」
「……うん」
私の返事を聞いて“あー、はいはい”と、一人で納得をして、
「じゃー、俺が美青ちゃんを好きだっていうのはどういう事?」
それに関して、もう気が済んだらしい彼は、ちょっと首を傾げながら次の質問を口にした。
“どういう事”も何も。
「……違うの?」
だって、今までの言動からするとそれって明らかで。
「なんでそう思うの?」
思わず質問返しをしてしまった私に、彼は更に質問で返してくる。
「だって結婚式の時に、最上さんがそう言ってたし……」
「そういえば、そんな事もあったような」
「それに、最上さんから助けてくれた時も。私のこと“大切な人の妹さん”って」
「……」
「さっきも――」
そこまで口に出して、ハッとした。
だけどその理由を知るはずもない稜君は、言葉に詰まる私を見ながらキョトンとした表情で首を傾げる。
「ん? “さっきも”、何?」
「ごめんなさい」
「へ?」
「さっき病室の前で、彼女さんとの話を聞いちゃったの」
「あー……」
「それで、稜君が“他に相手がいる人”が好きだって」
そう口にして、立ち聞きの後ろめたさから、ちょっと気まずい視線を稜君に向けると、
「ちょっと待ってねー……。今、頭の中を整理中」
彼も彼で、少し顔を赤くしながらそんな事を言っていて。

