そのままゆっくりと、何も言えないでいる私を、壁際に追いやるように歩み寄る。
「……っ」
――無理だ。
無言で首を振る私から目を逸らさない稜君のその視線に、私は耐えられなかった。
「お願い。もう稜君の傍にいるの、辛い……っ」
弱い私は、稜君の真っ直ぐな瞳から逃げたくて、ポロポロと零れ落ちる涙を隠したくて。
呟きながら俯き、両手で顔を覆う。
とにかく怖くて、苦しくて、もう逃げ出してしまう方が楽だと思った。
「何で……そんなこと言うんだよ!!」
だけど稜君は、それを許してはくれない。
顔を覆う手を退けるように腕を掴むと、私の身体ごと、それを背後の壁に押し付けた。
抗うように小さな抵抗をみせる私に、稜君は何故か苦しそうに顔を歪め、
「頼むから逃げんなよ……っ!!」
いつもより強い口調で、そう言ったんだ。
初めて聞く彼のそんな声に、私の肩がビクッと震える。
それに気付いた稜君は「ごめん」と小さく呟くと、
「手、離すけど、逃げちゃダメだよ?」
さっきよりも少しだけ柔らかい口調で――だけど、いつもよりも低い声でそう言うと、ゆっくり私の両腕を解放した。
「美月ちゃん」
俯いたままの私に、やっぱりいつもより少し低い声で話しかける。
「顔、上げて?」
言われた通りゆっくり顔を上げると、目の前にはホッとしたような稜君の顔があった。
「急に逃げるから、ビックリした」
「……ごめん」
「ねぇ、どうして泣くの?」
さっきよりも近くなった距離で、私に真っ直ぐ向けられるのは、彼の優しい瞳。
少し前までは、それが本当に心地よくて、幸せで……。
だけど今は、ただひたすらに、私の胸をギューギューと痛いくらいにしめつけて、あんなにも嫌がっていた涙を、人前で流させる。

