オレンジの輪切りの上に角砂糖を一つ置き、そこに紅茶を注ぐ。
私が淹れるシャリマティーは、おねぇーも大好きで……。
辛い時、無性におねぇーに会いたくなる私は、今更ながら相当なシスコンなのかもしれない。
そろそろ、姉離れしなきゃなー。
苦笑いを浮かべ、紅茶を乗せたトレー持ったまま、テレビを消そうとそれに歩み寄った瞬間。
「……え?」
観客の大きな声がテレビのスピーカーから聞こえて……。
だけどそれは歓声ではなく、むしろ悲鳴にも近い、そんな声。
気付かぬ間に、手から滑り落ちていたトレー。
次の瞬間、独りきりのリビングに響いたのは、ガラスが割れる大きな音だった。
「美月!! 稜君が……っ!!」
それと同時に聞こえたのは、階段を慌ただしく駆け下りる足音と、焦りを含んだ結衣の声。
勢いよくリビングのドアを開けた結衣が、その場の様子に息を呑むのがわかったのに、私は身動きも出来ないまま、視線さえ彼女に向けられない。
「美月、危ないからとにかくこっちに」
冷静さを取り戻した彼女が、テレビに釘付けになったまま呆然とする私の腕を掴む。
だけど、震える足が言うことを聞いてくれない。
「結衣」
「うん」
「稜君、どうしたの?」
「……」
「……ごめん。結衣にだってわかんないよね」
何も答えられずにいる結衣に、何故か笑いながらそう口にした私は、その場にしゃがむと、震える指で割れたカップの破片を拾い集め始めた。
「美月、いいから!! 私やるから!!」
大丈夫だよ、これくらい。
私だっておっちょこちょいだけど、結衣だって相当なんだから。
これで結衣にケガなんてさせたら、大変でしょう?
誰に向けられているのかも分からない言葉を頭中に思い浮かべ、必死に冷静さを取り戻そうとするのは、人間の自己防衛かなにかなのかな。
「……っ」
気を逸らそうと、よくわからない事を考える“冷静な頭”とは裏腹に、身体はまだ言うことを聞かなくて。
小さく顔を顰めた私の指先から、ポタポタと紅い血が流れ落ちる。
「稜君、大丈夫だよね……?」
その言葉を呟いた事で、まるで抑えていた何かが外れたように、堰を切ったように流れ出した涙が、静かにフローリングに零れ落ちたんだ。

