それでなくても混乱してるのに、突然出された自分の名前にますます頭がゴチャゴチャになる。
「稜君」
「ん?」
「ごめん。言ってる意味が、よくわからないよ」
私がそう告げた瞬間、瞳の端に彼の手が映り込み、それが私の頬をそっとなぞった。
――ドクン。
久し振りに感じた彼の手の感触に、大きく跳ね上がった心臓。
だけど、目を見開いたまま動けずにいた私に、稜君がポツリと言葉を落とした。
「翔太くんの前では、泣くんだね」
淋しそうにも、私を蔑むようにも見えるその瞳に、一瞬反応が遅れる。
「――え?」
「やっぱ俺は頼りなかった?」
その言葉で、やっと私は理解したんだ。
あの花火の日。
人前で泣いたり、弱い所を見せるのが苦手だと言った私。
そして“彼氏には時々、泣き顔も見せるかも”と、冗談で言ったはずだった。

