.
.
「貴方の前の患者ですか?」
「ええ」
「少し、精神状態が不安定でしてね」
「えっ」
「いつも傷をつけてここに来るんです」
「傷をつけて、ですか」
「はい。玲奈さん、と言ったかな。」
「・・・」
「もう随分前から来ていて・・・
どうやら誰かにDVを受けているらしく、
普段は明るくて良い方なのですが
“特定の人”に会うと
人相が変わってしまうようなんです」
.
.
.
溜息をついて医者はそう言った。
俺の視界は闇へ堕ちた。
DV・・・。
.
一体、玲奈さんの身に
何が起こっていると言うのだ。
.
それに傷って・・・
傷・・・――――
.
.
「あっ」
.
.
声が出てしまった。
.
.
「どうかしましたか」
「い、いえ・・・。
つかぬことをお聞きしました。
失礼しました、それでは」
.
.
そう言って俺は
診察室を後にした。
.
一人きりの帰り道、
俺は手首を摩って脈を感じた。
.
恐らく傷というのは
リスカだろう、と
心が答えた。
.
