愛に傷ついた女の人は、「寂しい」と言う。

「哀しい」と言う。

「惨めだ」と言う。

「悔しい」と言う。


そして最後に言う。

「もう恋なんかしない」と。



「ねぇ、悠。私、今はもう恋愛とかする気おきないけど、いつかまた、誰かを好きになったり、誰かに想われたり、するかなぁ」


少年は、この少女を、「愛おしい」と思った。

きっと、何年か後に街ですれ違っても、まったく気付かないほどの綺麗な女性になっているのだろうと思った。

それこそ、この男のどこが好きだったのか分からないぐらいのことを言っているかもしれない。



「アイカ」

少年は、その名を発するのと同時に、彼女の身体をベッドへと導かせた。

すかさずスカーフを抜き取ると、首元を隠していたブラウスのボタンを外し、その胸元に優しく口づけた。

「悠…」

彼女もまた、悠の首に自らの腕を絡ませながらその名を呼んだ。



「元彼の名前、なんて言うの?」

「…マキト」

「じゃあそう呼んでよ、僕のこと」

「え…」

「彼のために用意したんでしょ。だから、イイ思い出を作ろう」

「でも…悠はそれじゃ…」

「僕のことなんて気にしなくていいんだよ。
アイカの素敵な時間を作るために僕はいるんだ」

「悠…」

「違うでしょ」

「…マキト……」

「うん。…あ、一つだけ。
今日でそいつの名前を呼ぶのは最後だ。
そいつのことで悩んだり泣いたりするのも今日で最後。
その代わり、今日いっぱいは今までのことを思い出して泣いてもいいから。
僕がずっと側にいる。抱きしめてる」

「うんっ…」