「アイカさん」

「アイカでいいよ。私も悠って呼ぶから。」

相手は少年から離れると、

「シャワー浴びる?お湯はもうできてるよ」

くるりと背を向け、自分の部屋のようにスタスタと入っていく客のあとを少年は静かな足取りで室内へ一歩踏み出した。

「あんましゃべんないね。こーゆぅの、慣れてるはずなのに。
あ、年上のほうがよかった?」

客の年齢は、少年と同じか、または少し下といったところだろう。

小柄な身長がそう見せているのだろうか。


「アイカはいくつ?」

「17だよ」

「じゃあ、僕と同じだね」

「えっ、ホント!?なんかもっと下っぽいって思ってたけど、違うんだ。
ね、このホテル、すごくない?私さ、今日のためにかなり奮発したんだぁ」

アイカはそう言って、ふかふかな真っ白なダブルベッドに腰からダイブした。

スカートがふわりと舞い、少々形を崩しながら、その細くて白い太ももをなぞる。

少年は、わずかな好奇心に似た感情が生まれるのを感じていた。


「…今日のために?」



「あっ、そっか。全然話してなかったよね。少し、聞いてくれる?」

相手が今ここで初めて、自分に“許し”が出たのを少年は心の中で悟った。

うつむくようにして話し出すその客の背後にまわり、軽くその身体を抱きくるんだ。


「悠…優しい人だね、ありがとう。
一人じゃ辛すぎたから、ホント嬉しいよ。
あのね、今日、元カレの誕生日なんだ。
それも、この部屋で一緒に過ごすはずだったんだけど、いきなり今日、別れようとか言われてさ。
好きな人できた、とか言われて。
それもさ、すっごい年上なの。
結婚もしてるみだいだし。不倫だよ!?
もーかなりびっくり。信じられないよ」


客から発せられたその言葉の意味を、少年は考えようとした。


寂しさか、ただの興味か、それかたまた、復讐だったりするのだろうか。



「…違うか。」

どれにも当てはまらない、と少年は漏らし、首をかしげてこちらを見るその客に、優しい笑みを漏らした。