始まりは、ほんの少しの好奇心。

テレビで見た夜の新宿。

昼とは違う世界を醸し出すその光景に、少年はかすかな好奇心を芽生えさせた。

この日から、この時から少年の人生は少しずつ…変わっていったのだ。


夜の街に一歩足を踏み込めば、周りはみんな仲間と化す。

そこで少年は今の自分を生み出し、ここまで育て上げた飯島という男に出逢う。

「うちの店で働かないか」と、
「君の瞳が気に入った」と。

そこまではまだこの話を受ける気はしなかった。

が、「辛い過去と決別できる。金だって手に入る」と、その言葉で少年はこの世界への一歩を確かに踏み出したの夜の街を好む大抵の人間は何かしら暗い過去を抱え生きている。それが大きいか小さいかの違い。

”辛い過去と決別できる”

その言葉はどんなきれい事よりも少年の真っ暗な闇のかかった心を動かした。

契約内容を述べる飯島の言葉の中には法律用語らしきものが含まれていて、少年は眉間にシワを寄せたまま無心で聞いていたが、「決して人を愛するな、人を愛おしいと思ってはイケナイ」という力強く言い放つ最後の言葉で、少年は操られるようにコクン、と首を縦に振った。


生きる為じゃない。

ただ過去に蹴りをつけたい、ただそれだけのこと。

そして今日も少年は女を抱く…。

自分の中にある暗闇から抜け出すために…









夢中で走り続けてた日々が、あった。

何に向かって?

誰に向けて?

そんなことすらわからないまま、無我夢中で求めていたものがあった。


言葉には出来ない大切な存在。

うまく伝えられることはできないけれど、いつかきっと辿り着ける。

そう信じてた。



あなたに与えてもらいたかったもの。

あなたにしてあげたかったこと。

離れ離れになった二人の手。


未だに何も掴めていない自分自身が不様で滑稽で煩わしくて。

消えてしまえたら―…

一体どのくらい願っただろう。


自分の存在価値を誰かに決められたくなんてないくせに、
そんな自分が一番、「無」に等しいようで。

全てを塗り替えることなんてできなくて。

何か新しいものを生み出すことすらできなくて。


湧き出す願いと同時に生まれる絶望。



僕は一体、あとどれくらい生きなきゃいけないんだろう。