少年がこの仕事に就いてから約半年が過ぎようとしている。

その許される時間の中で色んな女と関係を持った。


遠距離に耐えられなく、寂しさ故に温もりを求め、少年を買った女。

独り身で寂しい、はっきり言ってしまえば欲求不満が原因で少年を買った女。

夫に相手にされず、性欲処理の対象として少年を買った女。

身体ではなく、少年自身に興味があって近寄ってきた女。

また、性別を超えた客商売だってあった。


つまりは同姓に身体を求められた、ということなのだが。

色々なタイプの人間と関係を持ったが、この少年には一つだけ心に決めていることがあった。

それは、どんなに熱く求められても口を合わせるキスはしない、ということである。


他のことなら金さえ払えば、どんな望みも叶えてきた。

「愛してる」と言って欲しいと望むならば言ってやったし、きつく抱きしめて欲しいと望めばありったけの気持ちと一緒に抱きしめてやる。

そんな世界で生きているヤツがキスだけはしないと、そんなきれい事にも似た言葉を言っても無駄なことは分かっている。

が、少年の意志は固く、今まだ少年のキスを奪った者は現れていない。

それがまた客としては楽しいのかも知れない。

キスを与えられた者はそれだけ少年にとって価値のある女性だということ。


大人の軽いゲームだ。



そもそもこの少年が売り子という仕事に就いたのは、暗い過去を抹消するためであった。

父親の暴力が原因で離婚し、母と二人で暮らすようになった幼い頃。

お風呂で見る母の身体には痛々しい傷がいくつも存在していた。傷が増えていくたび、父親を憎む気持ちも比例して増し続け、この人は自分が守っていかなければいけないという気持ちが幼心には芽生えていた。

二人で暮らすようになってからは母親にも笑顔が戻り、また少年も、失われかけた愛情というものを取り戻し二人には平穏な日々が得られた。

…が、苦しみから解放され、早一年が経とうという時。

当時十三歳を迎えていた少年と母親は、引き裂かれてしまうことになる。

前触れと言ったものは無く、ある日突然その母親の姿は消えたのだ。

一人っ子の少年には頼る人もいなく、絶望がただ自分の周りを支配していくのを感じるだけであった。

自分を捨てた母親。

信じていた者に裏切られ、少年は完全に心を閉ざした。生きる希望などもはや一欠片もない。



そう…あの夜の街と出会うまでは。