しばらくしてその少年を、ある人影が訪ねてきた。

おそらく年齢は二十代後半であろう、若い女性。

「君…藤永悠くん?」

栗色のかかった肩までの天然パーマの髪を耳にかきあげ、冷たいコンクリに座るその少年に目線を合わすよう目の前にかがみだす。

少年は、被っていたトレーナーのフードをパサリと落とし、長い前髪からかすかに見えるその瞳だけを上に向けた。

ふわりと甘い香りを漂わせるその女性と少年の視線がそこで初めて重なり合う。

「えっと…」

少年は、ズボンのポケットの中から小さな紙切れを探り出す。

カサリ、と音を立てて、小さく折られたその紙を広げると、

「サオリ Am0:15 \本人次第」

と記されていた。

その紙を再びポケットに戻し、再度二人は見つめ合う。

「サオリさん、こんばんは。ユウです。今日はご指名ありがとう。」

少年は、ふわりとほほ笑んだ。






この二人は一体どのような関係なのだろう。

今の会話からすると、少年は名前もうろ覚えの女性と待ち合わせをしていたように取れる。

しかし、対する女性はそんな少年の失礼な態度に関わらず、にっこりと微笑んで見せた。

沙織もまた、この藤永悠を待っていたようだ。

お互いの確認を取り合うと、少年は沙織の手を取り、「行こう」と一瞬で作り出した笑顔と共に告げる。

沙織もまた満面の笑みで頷き、二人はそのまま闇の中へと消えていった。





・・・この少年の職業は、自らの身体を売りとする、売り子である。

その表現は間違っている、と否定の言葉が生まれても無理はないが、裏の世界ではそのような職業を持つ人物を「売り子」と呼んでいるのだ。



少年・・・藤永悠は十四歳という若さでこの世界へ飛び込み、一部では有名な人物である。

十四とは思わせぬテクを持ち込み、一晩彼に抱かれた女性はその少年の生む世界の虜になるという。

彼に抱かれる為なら金も惜しまないという客はたくさんいた。

若さ故だろうか、理由は掴めないがとにかく年上の女性に人気が高い。

ここ一ヶ月、少年のスケジュールは全て自分よりはるかに年上の女性との約束で埋め尽くされていた。







in ホテル

営業用に使われるホテル。

昨晩は自分と同い年の女の子をこの部屋で抱いたという。

「ねぇお姉さん、俺をいくらで買ってくれる?」

パタン、とドアの閉まる音を背後に、少年はその華奢な身体を後ろから抱きしめた。


そして二人きりになりまさにこれからという時、少年は甘い雰囲気を壊す要因として最も的確な「金」という質問を投げかけた。