少年はアイカの身体を隅から隅まで愛し続けた。
アイカは泣きながら元彼の名を呼び続け、ときに叫ぶように泣きじゃくった。
アイカの身体が痙攣しながら達した時、彼女の口元が「悠…」と呟いた。
涙を浮かべる瞳から一粒の涙を零し、腕を少年の頬へ伸ばす。
「アイカ…」
一つになった肉体同士が次に求めるのは心の通い合いなのだろう。
彼女は今、悠を求めていた。
そんな想いを打ち消すように、悠は自身を最後に導かせるため、勢いよく腰を何度も打ちつけた。
彼女の伸ばした手は儚く宙を舞い、彼女の声にならない声が室内に響いた。
そして再度、彼女の口から「悠…」と呟かれた瞬間、悠はその彼女の手をとり、ぎゅっと握りしめた。
彼女は愛おしそうに目の前の少年を見つめた。
赤く染まった頬は肉体から放たれた快感だけで造られているわけではない気がしてくる。
「悠ッ…もっ…!ダメだよっ…わたしっ…」
彼女の中から苦しめていたその存在の名が消えていたことに少年は気付いた。
「じゃぁ…またね、アイカ」
小さく囁いたその声は、最後に導かれようとしているアイカには聞こえていない。
少年は繋がるその部分に中指を這わせながら、そして自身を何度も何度も奥まで貫いた。
そして、アイカの身体が今までよりも大きく痙攣したあとすぐ、少年もその熱いものをアイカの中へ放った。
アイカは気を失ったのか、顔をさきほどよりも紅潮させ、浅く速い深呼吸を無意識に繰り返しながら目をつむってベッドへ横たわっている。
「アイカ、ありがとう。また、いつか」
もう会うことはないだろうけれど。
少年は呟いたあと、アイカのヴィトンの財布から1枚の万札を引き抜いたあと、ホテルを後にした。
恋のような錯覚。
確かに彼女は、この瞬間、少年に恋をしていた。
けれどそれはまさに一炊の夢というやつで。
目覚めたとき、その思いは姿を消してしまう。
代わりに、それは「記憶」として残ることはできて。
そしてそれも、いつか上書きされてしまうだけのこと。
そう。
それでいい。
この商売は、そういう世界だ。
そういう自分を演じているだけのことだ。
あるようでない「心」。
たった1時間、2時間で心を通わすなんて、とても無理な話。
だからこそ人は、愛おしいと思えた人とは長く一緒にいたくなるんだろう。
知りたい、知ってもらいたい。
そんな人間らしい欲求があってこそ。
僕には…
必要のない感情。
藤永悠は、まさにぼくの化身だ。