夜が深くなる前に会社を出たことりの足は気づけばカフェへと向かっていた。
頭では崇也がいないことなどわかっているのに、視線は彼の姿を求めて店内をキョロキョロと彷徨った。
壁際のソファ席に座ろうとして、道路に面した窓際のテーブル席へと変更する。この場所なら外を彼が通れば一番最初に分かると思ったのだ。
注文したのはいつも頼むブレンドコーヒー。
ただいつも断るミルクをなんとなく今日はもらってみた。
なみなみと注がれた炭色の珈琲にポーションのミルクがマーブル模様を描きながら広がっていく。零さないようそっと口に運んで舌に残る後味にことりは苦く息を吐いた。
「・・・・やっぱり足りない」
わかっていたように肩を竦め呟いたことりは、一口口をつけただけのカップを静かに置く。そして、視線を窓の外へとゆっくり向ける。
マナーモードにしたままの携帯がバッグの中で静かにメールの着信を告げた。
次第にざわざわとしていた店内も、忙しい時間帯のピークを過ぎたのか客足がまばらになってきた。
流石にずっと同じ景色を見続けていれば目が疲れてくる。
あれから量が少しも減っていない珈琲はすっかり冷たくなっていた。
手首にした時計に目線を落とす。閉店10分前だった。
今日はもう諦めようと精算を済ませ、店を出ようと帰り支度をし始めたその時だ。
窓の外に崇也の姿を見つけた。
一瞬、歩く人の間から見えた横顔は、前を見ていて、カフェの店内にいることりに気づいてはいない。
別人かもしれないと思ったが、疑うより確かめたい気持ちが勝っていて、椅子に引っ掛けたままのコートを羽織る時間ももどかしく、腕に持ったまま、バッグを引っ掴み足早に店を飛び出した。
ピンヒールの靴は走りにくく、何度も転びそうになりながら、駅へと続く歩道を駆ける。
チャコール色のダウンジャケットを着た男性の合間から覗いた彼の後ろ姿を、見失わないよう、伸ばせるだけ手を前に伸ばした。
バランスが崩れことりの体が前へと傾いていく。
その足音にか、気配にか、足を止め、肩越しに振り向いた顔は、待ち望んでいた崇也のものだった。
慌てた表情をした彼がことりの瞳一杯に広がっていく。そして
「ことり!?」
初めて聞く焦りを滲ませた崇也の大声の後、星が瞬く夜空と、アスファルトの地面が反転した。
頭では崇也がいないことなどわかっているのに、視線は彼の姿を求めて店内をキョロキョロと彷徨った。
壁際のソファ席に座ろうとして、道路に面した窓際のテーブル席へと変更する。この場所なら外を彼が通れば一番最初に分かると思ったのだ。
注文したのはいつも頼むブレンドコーヒー。
ただいつも断るミルクをなんとなく今日はもらってみた。
なみなみと注がれた炭色の珈琲にポーションのミルクがマーブル模様を描きながら広がっていく。零さないようそっと口に運んで舌に残る後味にことりは苦く息を吐いた。
「・・・・やっぱり足りない」
わかっていたように肩を竦め呟いたことりは、一口口をつけただけのカップを静かに置く。そして、視線を窓の外へとゆっくり向ける。
マナーモードにしたままの携帯がバッグの中で静かにメールの着信を告げた。
次第にざわざわとしていた店内も、忙しい時間帯のピークを過ぎたのか客足がまばらになってきた。
流石にずっと同じ景色を見続けていれば目が疲れてくる。
あれから量が少しも減っていない珈琲はすっかり冷たくなっていた。
手首にした時計に目線を落とす。閉店10分前だった。
今日はもう諦めようと精算を済ませ、店を出ようと帰り支度をし始めたその時だ。
窓の外に崇也の姿を見つけた。
一瞬、歩く人の間から見えた横顔は、前を見ていて、カフェの店内にいることりに気づいてはいない。
別人かもしれないと思ったが、疑うより確かめたい気持ちが勝っていて、椅子に引っ掛けたままのコートを羽織る時間ももどかしく、腕に持ったまま、バッグを引っ掴み足早に店を飛び出した。
ピンヒールの靴は走りにくく、何度も転びそうになりながら、駅へと続く歩道を駆ける。
チャコール色のダウンジャケットを着た男性の合間から覗いた彼の後ろ姿を、見失わないよう、伸ばせるだけ手を前に伸ばした。
バランスが崩れことりの体が前へと傾いていく。
その足音にか、気配にか、足を止め、肩越しに振り向いた顔は、待ち望んでいた崇也のものだった。
慌てた表情をした彼がことりの瞳一杯に広がっていく。そして
「ことり!?」
初めて聞く焦りを滲ませた崇也の大声の後、星が瞬く夜空と、アスファルトの地面が反転した。
