恋涙歌



ガラリとドアを開けて蒼井先生が入ってきた。







「どうした?溜め息なんかついて」






そういうと先生は彼女の前に立ち、相変わらずの笑みを浮かべた。


間近で彼の笑顔をみて、ハッとした。







「(この人…目が笑ってない)」



「日向さん?」




「先生は…なんだか笑ってるのに楽しそうじゃないね。どうして無理してまで笑うの?」







先生は驚いて目を見開くと笑顔を消した。






「…俺はめんどくさがりだからな、笑っとけばとりあえず楽にことが進むからね。この職業も周りに進められたからな。音楽なら楽だし。英語も嫌いじゃないし」






そういうとまた、笑顔を貼り付けた。






「なんだかショパンみたい」




「え?」





「オシャレで社交的な人物だったけど、実は保守的で、故郷の仲のいい友人以外に心をなかなか開かなかった。おまけに優柔不断で周りに合わせてたらしいし」







それでも彼は音楽に関しては決して揺るがなかった。
きっと彼は音楽に、ピアノに生きる喜びを感じていたのだろう。
だからピアノ以外に殆ど作曲しなかったのだと思う。というか勝手にそう思ってはいる。









「…ショパンには音楽があったけど、先生にはなにかあるようには見えないね」





「…くすくす」




「え、なに?笑うとこ?」





「いや、良く知ってるな」




「そりゃまぁ好きですから。素人の浅知恵だけど」







物心がついた時にはもう、ピアノを始めていた。
初めて出た発表会で自分よりずっと上の人が弾いていたショパンを聞いて感動した。
聞いた曲は“ノクターンOp9-2”。
今でも一番のお気に入りだ。






「…そういえば、先生音楽の先生なんだよね?」




「あぁ」




「専攻は?」



「ピアノだけど?」







私は目を輝かせると先生の手をとる。







「聞かせて!」





「え、でも時間が…」





「一曲でいいから!」






お願い、と顔の前で手を合わせると彼は溜め息をついてでは一曲だけ、と折れた。
私は飛んで喜ぶ。






「やった!先生ありがとう!」





「その代わり、一曲だけな?」





「うん!」




「それから、ちゃんと敬語を使いなさい」






先生がそう言うと、私はちょっとしおれてはい、と頷いた。
よろしい、と彼が言うと私は彼の腕を引っ張って音楽室に向った。