pianissimo.

大輝の横をゆっくりと通り過ぎる。やっぱり、私を背後から抱きすくめているのは大輝ではなかった。


凍てつくような大輝の冷たい視線に、背筋にゾクリと悪寒が走る。



けれど大輝はフイと顔を背け、私の自転車へと歩み寄る。そうして、倒れた時に籠からこぼれ落ちた鞄を拾い上げると、

「慌てんぼうだなぁ、りんこちゃんは」

薄く微笑んでそう言うと、車の方へと戻って来た。




後部座席に押し込められ、二人の男に挟まれて、完全に逃げる手段を奪われた。遅れて大輝が助手席に乗り込む。彼はゆったりとシートに腰を落とすと、

「出せ」

事務的な口調で言う。



「降ろして! お願い」

縋る思いで願ってみたけど、大輝はこちらを振り返ることすらせず、無情にも車はすーっと滑らかに走り出した。


窓の外の流れる景色を目にし、言い知れない絶望感に襲われた。