pianissimo.

郁香がどこの本屋に居るのか、ちゃんと確認すれば良かった。すっかり忘れていた。



でも取り敢えずは、早く目的地へ到着したい。涼しい場所に避難したい。

照りつける陽光のせいで、身体がジリジリと焦げ付く。あっついなーもう……。



へろへろになりながら、必死になってペダルを踏む足を動かしていると、背後から走って来た車がすーっと減速して私の右側に並んだ。


ゆっくりと並走するフルスモークのセダン。ヤンキーかヤクザか……いかにもそっち方面の人が乗っていそうな厳つい高級車だ。


たちまち背中をつーと冷たいものが伝い、全身に鳥肌が立った。まだ何も起こっていないけど、とにかく怖い。



残っている力を全て振り絞って、自転車のスピードを上げたけど、真っ黒なそれはピッタリと私の横に貼り付いたまま離れない。


どうしよう……。



助手席の窓が静かに滑り降りて、顔を覗かせたのは――

意外にも普通の男の人だった。