pianissimo.

「お前さぁ、頭と耳はまだ使えんだろ?」

溜息を吐いたライガが呆れたように言った。


「『あの人』に、二度と近寄んなっつってんの。『あの人』を傷付けたやつは、俺が全員ブッ潰す。お前らだろうが誰だろうが、そんなもん関係ねぇ。わかった? 返事は?」


「わ……かったよ。二度と近付かねぇ」


苦々しく、どこか不満げ。けれど男は渋々といった感じで同意した。



「よし」

ライガは満足げに頷くと、すっと軽やかに立ち上がる。


そうして、私の方なんか目もくれず、颯爽と走り出す。まるで私の存在に気付いていないみたい。そんなはずないのに……。



どうしてよ?


私を見てよ、ライガ。

私のこと、『あの人』だなんて呼ばないで。



咄嗟に私も、ライガの後を追って駆け出した。