pianissimo.

「どんな字書くの?」

気持ちはもう、有り得ないぐらいに焦燥しきっていたけれど、平静を装って更に尋ねてみた。


きっと平静なんか装いきれていない。どうしようもなく動揺している。心臓だってバクバクバクバク、とんでもなくうるさい。



郁香は私の机の上にのっていた筆箱からシャープペンシルを取り出して、五時限目の授業用に配られたプリントを裏返し、その上にサラサラーっと手にしたそれで走り書きした。



『頼賀智晴』



すぐに消せるように薄く書かれたそれ。穴が開きそうなほど凝視した。


ライガは苗字? じゃあ、どうしてライガの家の表札は『成瀬』だったんだろう。養子? 養子だったら苗字はそこの家のものになるよね。良くは知らないけど。それとも、居候?



あと他に考えられるのは――


あの『成瀬』という表札の家は、ライガの家じゃない……?