斎はまだこれを持っていたのか、と思った私はとっさにその小瓶を手の中に隠した。
『見苦しいな、いい加減にしろよ、まり。女殴るなんて後味悪いこと俺にさせんなよ』
後ろでぶつぶつ言いながらテーブルを蹴っ飛ばす斎をちらりと見ながら、私は立ち上がって台所に行った。
大人しく晩ご飯を作る気になったのかと思ったのだろう、斎は様子を見に来ることもなく、まだ文句を言いながらソファーに座る。
そのソファーも、俺これが欲しいと斎が言ったから、買ったものだった。
今着ている服も、斎の趣味。髪の色も、灰皿も、カーテンも、それからそれから―――――
私は冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出した。
白い錠剤を数えもせずに手の平に落とす。バラバラと音をたてて小さな錠剤は私の手のひらに山盛りになる。
錠剤を口に放り込んでビールを勢いよく呷った。ごくりと音を鳴らして飲み込む。それを間をあけずに何度も繰り返す。
ビールの苦さが喉に染みて、すこしばかり咳き込んでしまった。
そんなにすぐには効かないのかな。でもその時の為に酔っ払ってるくらいのほうがいいよな、てぼんやり考えたのを覚えている。
缶を開ける音に気がついた斎がふらりと台所にやってきて、缶ビールを一気飲みする私を見て言った。
『飲むんだったら、俺にも――――』



