彼はそれまでも口も悪い男だった、それは十分知っていたけれど、私に対してそんな言い方をしたことは一度だってなかったのだ。

 私は親にも勿論、そんな暴言を吐かれたことなどない。驚愕して立ち尽くすのには十分な言葉だった。

 呼吸を止めて目を見開く私をみてせせら笑い、更に悪魔は言った。

『そろそろ抱くのにも飽きてきたし、お前はもう用無しだな。大した体じゃねーのに抱いてやったんだから、礼を言って欲しいくらいだぜ』

『いっ・・・斎』

 私が小さな声を零すと、ヤツは鬱陶しそうにそれを手で払って壁にもたれかかった。

『飯だよ、飯。さっさと作ってくんない?せめて最後にそれくらいの奉仕はしろよ』

 頭の奥で、確かに何かが切れた音を聞いた。

 あまりの強烈な怒りに飛び掛ると、簡単に突き飛ばされた。頭が沸騰している時は、体もうまく動かないものだ。そしてそのままヤツの鞄の上に無様に倒れた私の目の前に、ヤツの鞄から転がり出てきた睡眠薬の小瓶が転がってきたのだ。

 これは、以前の職場の薬品室からパクッてきたものだとヤツが自慢していたものだったと思い出す。

 あの時、それって窃盗よ、最低ー、と言った私の目の前で瓶をふり、美しい目を細めて笑いながら言ったのだった。

 ――――――――辞める前に何かもらっとこうと思ってよ――――――――