30歳の私、小川まり。

 派遣会社に登録をしていて、出向先で事務をしていた。2年と5ヶ月付き合った美形の彼氏がいて、学生時代に出てきた都会で一人暮らしをしている。

 それが、4日前までの私。

 付き合っていた美形の悪魔は守口斎(もりぐち いつき)。爽やかな美形と称される外見を持っていたけど、実は中身は悪魔だった男なわけだ。年は一個上で、付き合っている時から口も性格も根性も悪かった。だけどまさか、こんな仕打ちが出来るほどに腐りきったやつだとは知らなかった。

 自分が余りにもバカだったと私は一人で口元を歪める。

 やつは金使いも悪かったわけだけど、異常に外見が格好良かった。やっぱり世の習いで外見が良いと外道になるものなのだろうか・・・全国のイケメンさんに疑いのまなざしを向けてしまう。

 とにかく、ヤツの素敵な外見と極上の美声につられて付き合った2年5ヶ月。よく考えたら私、幸せだったことってあったっけ?


 私が病院で目覚める羽目になったのはこういうこと。

 4日前の夜、晩ご飯を食べている最中に突然やってきた男に、自分の分も晩ご飯を作れと命令されたことに腹を立てたのだ。ほとほと疲れた私が罵って反抗すると、ヤツは綺麗な顔を恐ろしく歪めて吐き棄てるように言ったのだった。

『お前みたいなぼろ雑巾女に付き合ってやってるのは、家政婦が欲しかったからなんだよ。ごたごたぬかさずさっさと作れ!』

 心臓に直接ナイフを突き立てられたようなショックがあった。