睨みつける斎から視線を逸らし、静かに息を吐く。それから改めて、斎と視線を合わせた。
・・・負けるもんか。
狭い棚の間で身動きが取れないので、中々余裕気な態度が演出できない。仕方なくスチール棚に背中をつけて声を絞り出した。
「・・・いきなり何?」
斎はすっと眉間に皺をよせて、不機嫌な声を出した。
「何のつもりでここに来たのかって聞いてんだよ」
ヤツの目の中の憎悪に、私は殴られるのかもって思っていたのだ。もしかしたら、無言でいきなり殴られるかも、って。ところが口を開いたらそんな言葉が。一気に恐怖心がバカバカしさに変わり、私は鼻で笑ってやる。
「働くために決まってるでしょ」
「ああ?」
「4日、入院したわ」
あの時の怒りが体の底で再発する。私は目の前の美男子を、下からゆっくりと睨みつけた。
「緊急入院で携帯も持ってなかったから、前の会社は首になった。独身だし、働かなきゃいけないのよ私。それに―――――」
じっと斎を見詰める。
「退院したら、口座から貯金が消えてたし」
斎の眉がぴくりと動いた。



