「・・・・もうっ」
ぐぐっとお腹に力を込めて引っ張り上げていたら、後ろから伸びてきた手がそれを一気に掴み上げた。
「――――――え?」
足音も聞こえなかったのに人が!?と驚いて振り返ると、取り出した茶紙を持って、無表情で斎が立っていた。
―――――――あら、バカ野郎がいるわ。
急なことに頭がついていかず、私は驚いた顔のままで彼を凝視する。
細めたその瞳には暗い怒りのような影が見え、ぞくりとした。
ようやく動き出した頭が叫ぶから茶紙を取り返そうと手を伸ばしたら、一瞬早く斎はそれを後ろに引っ込めた。
「ちょっと!」
当然文句を言おうと口を開くと、ヤツは目を細めて睨んでいる。
「・・・・・お前、何が目的だ」
今までに聞いたことがないような低い声だった。
斎は基本的には明るい男だ。
自分の外見が良いことも、その利用価値もよく判っているし、機嫌がよければ周囲に笑いが絶えないようにふざけることもする。
その斎があんなに低くて暗い声を出すんだ、と私は更に驚いて、一瞬呼吸が止まった。



