「娘さんて、まさかここで働いてるの?」

 友川さんは片手をあげてちょっと待っての合図をしつつ、カップラーメンの汁をすすった。そして満足げな吐息を吐くと、周りを見渡して更に声をひそめた。

「そうです、えーっと、確か3階のレディースに居るはずですよ。この前の人事異動で来たらしくって、その百貨店主催の歓迎会で守口さんと会ったんでしょうね~」

 でないと階違いの人間とはあまり会う機会ないですもん、と続いた。

 確かに、店員食堂は警備員から清掃のおばさんまでこのビルで働いている人間が全員一緒に使うが、それぞれの店で勤務時間も違うし、それぞれの店に入っている人間の数で休憩時間も異なる。食堂で顔を合わせるのも毎日違う人間なので、階が違うと知り合いになれるチャンスなんて滅多にないってことが、入店して1週間の私にも判った。

「へえ~・・・その娘さんって、じゃあ同じ年くらいなのかしら、私と」

 同じように声をひそめて言ったら、友川さんはううーんと考え込んだ。

「あたしと同じくらい・・・かなあ?童顔なので、年が判り難い・・。でも20代後半だと思います」

 ふうん、と頷く。

 ・・・小林部長の、娘さん。今、斎の彼女とされている女の子。

 一度見てみなければ。売り場をリサーチしよう。とってもハッキリしていることは、斎が狙ってるのはその子本人ではなく、その環境と付随する色々なものに違いない。