女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 そうですか。私はちょっと考え込む。・・・そこまで観察されていたとは、露ほどにも思わなかった。もう少し警戒する必要があったのかもしれないって。

「そして、あの階段だ。君が落ちてきてそれを助けた時に、何か隠していると気付いた。落とされたはずなのに、そんなことはないと言う。だから俺は考えたんだ、この女性は、何かしているんではないかと。やっぱり一度ちゃんと話さないと、そう思って、機会を伺っていた。するとその後での倉庫の物騒な言い争い。そういえば―――――」

 彼が私をじっと見た。瓶を軽く振って、促す。

「あの時、何があったんだ?俺が行ったときには既に二人とも床に座り込んで、君は守口に口説かれてた」

「ああ・・・」

 私はまた仰向けに転がる。そのままでうーんと伸びをした。ビールが回ってきて、ほろ酔い気分だった。このままでは・・・眠くなっちゃうかも、と思いながら、さらりと言った。

「棚の上から配送伝票入りのダンボールが落ちてきて、頭に一撃で死ぬところだったの」

「―――――は?」

 ガタン、と音がした。彼が腰を上げたらしい。

「大丈夫、とっさに避けれて、無事だったから」

「・・・それも、守口が?」

 声に慎重さが聞き取れた。桑谷さんの緊張した空気に気付く。こんなところで、既に済んだ話を盛り上げたって意味がない。私は出来るだけ淡々と答える。