女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 見張っていたなら、そりゃあ驚いただろうなあ・・・。私は私で潜り込むのに必死だったから、後ろの売り場からそんな事考えて私を見ている人がいるなんて思わなかった。

 桑谷さんが手の中でビール瓶を転がしながら続けて言う。

「それで、話を聞くために君に近づこうと決めた。もしかしたら守口とグルで、何か企んでるんじゃないかと疑ったんだ。・・・ただ、パーティーで偶然に君が料理をくれたときに、それまでのイメージが変わった」

「変わった?斎とグルになって何かしようと企んでいる悪女だと思ってたんでしょう?どう変わったの」

 私は横向きに転がって、台所で立っている桑谷さんを見詰める。

 彼はちょっと照れくさそうに頭をかいて、口元で笑った。

「――――――この女性は賢いんじゃないかって。守口に酷い目にあったとは思えないし、アイツと組んで悪巧みをしそうには思えない目をしていた」

 あの、串カツの時に。

 私はただ単に、一日一度の善行のつもりで余っていた料理を渡しただけだったのに。あの時の長髪の男性は微笑んで会釈をしながら、そんなことを思っていたのか・・・。

「綺麗だとは思っていたけど、自分に向けられた笑顔を見たのは初めてで。話すきっかけを探しに参加したはずが、折角のチャンスを俺は固まってしまっただけだった」

「・・・・そんなに褒めても何も出ないですよ」

 私がそう言うと、にやりと笑った。そして体勢を変えずに話しを続ける。

「それで注意をして見ていたら、どうやら君は守口に敵対心を持っているようだ、と気付いたんだ。通路でのにらみ合い、お互いの露骨な無視。ということは、二人がグルでってことは考え難い、そう考えて軌道修正の必要があった」