女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 その場で振り返って、デスクにもたれかかって私を見た。

「・・・実は」

 私の反応を心配するような目をしていた。

「俺も転職組みなんだ。・・・・以前は、警備会社と調査会社にいた」


 カチリと私の頭の中でピースが嵌った音がした。

 あの身のこなし、油断のない顔つきと視線、状況把握能力や獰猛な目が、それを証明していた。

 階段で助けられた時の事を思い出す。降ってきた私に驚くより先に、周囲を確認して、逃げて行く斎に気付いていた。


 ・・・警備会社。そして、しかも、調査会社にまで。

 何だ―――――――この人、その道のプロじゃんか。


 何でそんな男が魚屋さんなのよ・・・似合ってるけど。百貨店の鮮魚売り場での格好を思い出して、私は段々と可笑しくなってきた。

 じっと私を見ていた桑谷さんが、どうやら私が笑っているらしいと気付いて、おーい、と言った。

「・・・・どの辺りが、笑うとこだった?」

 くっくっくっくとお腹と口元を押さえて笑う私が、ベッドサイドにビールを置いてベッドに転がっているのを、不思議そうに見ていた。

「あはははははは」

 もう我慢しないで全開で笑う私を、頭に手をあてて見ていたけど、呟いた声は呆れていた。

「・・・泣いたり笑ったり、忙しいお嬢さんだな」