「お疲れ様です」
声をかけ、周囲に会釈を繰り返して売り場を出る。そしてバックヤードに入り、真っ直ぐにロッカーに向かった。
今日は時間調整で早番が5時半上がりだったので、斎が6時にあがるまで時間がある。
手早く着替えて、5センチのヒールを履く。
いざとなったらこれで逃げれるだろうか?じっとその華奢なヒールシューズを見詰めてから首を振った。・・・無理だよな。でも武器にはなるかもしれないし、と諦める。手に持って振り回せば、傷くらいは与えられるだろう。
トイレに行って、慎重に化粧を直した。
汗と皮脂をふき取り、化粧水をつけてからパウダーをはたいた。アイラインを入れなおしてシャドーを入れる。唇には真っ赤なグロス。
綺麗になった鏡の中の私は緊張していた。
手で顔の表情を動かして柔らかくする。ダメよ、がちがちなんか。あのバカ野郎を誘惑できるくらいに素敵な女になって行かなきゃ。
ああ、こんないい女を捨てるなんて俺はバカだった、ヤツにそう思わせるくらいに、いい女に。
目を閉じて深呼吸を繰り返した。
そして、トイレを出た。
いざ、出陣。



