女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 すると首を傾げて斎が言った。不思議そうな顔をしていた。

「違うのか?てっきりそうだと思ってた。桑谷さんは、よくお前の方みてるぞ」

「え?」

「俺の店から見たら鮮魚とこの売り場は一直線で見えるからな。・・・ま、それもどうでもいいか」

 またひょいと肩をすくめて、それから真剣な顔になった。

「最後に一回だけだ。これでもうお前には近寄らないから。ちゃんと自分の手で返したいんだ」

 付き合っている間も2,3度しか見たことがないような、真面目で真剣な顔をしている。私はちょっと驚いてそれをじっと見詰めた。

・・・何を考えてるんだろう。どうするべきだろうか。周囲の視線を感じながら、頭をフル回転させて考えた。

 斎が真面目な表情のままでこちらを見ている。姿勢良くそこに立って、私の返事を待っていた。そこに、『ガリフ』にお客様が来店したのが私の視界に入る。守口店長、そう言って私が指をふると、ヤツはパッと笑顔になって売り場に戻った。

 華麗でスマートな斎の接客をぼんやりと見ていた。

 桑谷さんの話・・・お金の返済・・・これで最後・・・晩ご飯。

 頭の中をキーワードがぐるぐると回る。

 41万・・・今は持ってない・・・桑谷さんが私を見ている・・・。

「お先でした~」

「あ、お帰りなさい」

 竹中さんが休憩から戻ってきたので、私はストックに行ってきますと売り場を出た。

 接客を終えてお客様を送り出した斎がカウンターの前に立っていたので、通り過ぎざまにヤツに向かって呟く。

「上がったら、角のコンビニで」

 そのまま振り返らずに倉庫へ行った。