すると首を傾げて斎が言った。不思議そうな顔をしていた。
「違うのか?てっきりそうだと思ってた。桑谷さんは、よくお前の方みてるぞ」
「え?」
「俺の店から見たら鮮魚とこの売り場は一直線で見えるからな。・・・ま、それもどうでもいいか」
またひょいと肩をすくめて、それから真剣な顔になった。
「最後に一回だけだ。これでもうお前には近寄らないから。ちゃんと自分の手で返したいんだ」
付き合っている間も2,3度しか見たことがないような、真面目で真剣な顔をしている。私はちょっと驚いてそれをじっと見詰めた。
・・・何を考えてるんだろう。どうするべきだろうか。周囲の視線を感じながら、頭をフル回転させて考えた。
斎が真面目な表情のままでこちらを見ている。姿勢良くそこに立って、私の返事を待っていた。そこに、『ガリフ』にお客様が来店したのが私の視界に入る。守口店長、そう言って私が指をふると、ヤツはパッと笑顔になって売り場に戻った。
華麗でスマートな斎の接客をぼんやりと見ていた。
桑谷さんの話・・・お金の返済・・・これで最後・・・晩ご飯。
頭の中をキーワードがぐるぐると回る。
41万・・・今は持ってない・・・桑谷さんが私を見ている・・・。
「お先でした~」
「あ、お帰りなさい」
竹中さんが休憩から戻ってきたので、私はストックに行ってきますと売り場を出た。
接客を終えてお客様を送り出した斎がカウンターの前に立っていたので、通り過ぎざまにヤツに向かって呟く。
「上がったら、角のコンビニで」
そのまま振り返らずに倉庫へ行った。



