なし崩し的にアレまで持っていけるかと思ったけど、甘かった。桑谷さんもよく判らない関係はもうごめんなのかな。
彼は、私を大事に扱おうとしてくれているのだろう。それだけはハッキリと判った。
うかつな事は言えない。それに、この男性を傷つけたいわけでもない。嘘だけはつかないようにしよう、とゆっくりと言葉を選ぶ。
「・・・・・桑谷さんの事は、好きだと思います」
「うん」
「でも、男の人とまた普通に付き合えるのかが判らない。斎との事で私は痛い目を長い間見てきました」
「・・・」
「ただ、あなたに抱いて貰いたかったんです。斎に感じな――――――――」
ぐいと、急に両手を引かれて二人の体は入れ替わり、今度は私がドアに押し付けられた。
「うっ・・・!」
背中が真夏の太陽で温められたドアにぶつかり、痛みに声が出る。
「あいつの事を―――――」
食いしばった歯の隙間から、押し殺した声で彼が言った。急に発生した怒りの気配を感じて、私は驚きに目を見開く。桑谷さんの細めた瞳に暗い感情が見えた気がして、私は恐ろしさに一瞬体を強張らせた。
「名前で呼ぶなと言ったはずだ」
「―――――――」
桑谷さんは怒っていた。むき出しの私の肌に食い込む、彼の指が痛くて熱い。その激しい反応に私は目の前の彼の瞳をじっと見る。



