「・・・・桑谷さん?」
出した声は掠れていた。私の瞳も潤んでいるに違いない。
「・・・・俺は」
彼は、さっき私がしたキスは大して影響がなかったような普通の声で、静かに言った。
「君に惚れてる。それは伝えてるはずだ。それなりに、いつも我慢してるんだ、君に触れるのを」
相変わらず体の力は抜いてドアにもたれかかったままで、淡々と言う。細めた黒目からは何の感情も読み取れなかった。
「―――――爆発して乱暴しないように、頑張ってるんだ。なのに、君にこういう事をされると・・・抑制が効かなくなるんだけど」
「・・・・・我慢してたんですか?」
「そう」
私は背伸びを止めて、足をつけた。彼の半袖から出た腕をドアに押し付けていた自分の手を見る。よく考えたらこのドアはかなり熱を持っているはずだ。それを全く感じてないかのような彼に驚いた。
「優しいんですね、桑谷さんは」
私が思ったことを呟くと、彼はため息をつく。
「・・・何なんだ、傷つきたいのか?」
「いえ」
「俺とどういう事になりたいんだ?付き合ってるんだと思っていいのか?」
私は視線を下に降ろして押さえつけていた彼の両腕から手を放した。



