見下ろしてくる細めた冷静な黒目を思い出す。器用に動く大きい手も。さらさらの長髪も。時折みせる、皮肉に笑う口元も――――――

 そうしたら芋蔓式に、引き締まった体や流れる汗、私の足を掴み上げて体を打ち付けてくる動きなんかも思い出してきて、赤くなった顔をロッカーに打ち付けた。

 ガン、と実にいい音がする。

 ・・・いやいや、発情してる場合じゃないでしょ、私ったら。何てことなのよ、全く。

 ここ最近本当に忙しくて会ってないし、前の居酒屋のあとも私はぷんぷんしたまま一人で家に帰ったし、2度味わった彼とのセックスを体が欲しがっているのが判った。

 たかだか20日やそこらで・・・。

 ・・・・・面倒臭いわ、30歳独身!熱くなった頬を両手でパンパンと叩いた。

 女友達に電話して、からかってもらうとかしなきゃ冷静にはなれないかも・・・。そう考えながら、どうにか着替えを終える。

 清涼剤を汗臭い体に吹き付けた。口紅はなしでグロスだけ塗って鏡をしまった。

 鞄を持って店員通用口へ向かう。

 彼に会いたいのか、誰でもいいから体を満たして欲しいのかが判らない。彼からメールが来てなくて残念に思ったのは、恋しているから?それとも体が寂しがっているから?

 うううーん。こんな事で私が悩むなんて・・・。他にもっと差し迫ったことがたくさんあるっていうのに。

 斎とのことがあってから、恋愛には臆病になっているはずだ。また気持ちを傾けるなんて出来るかどうかの自信もない。

 でも判らないのか、判りたくないから理解しないのか、さえも判らないなんて――――――――

「結構、重症なんだわ・・・」

 私は通用門を出てから許可証を仕舞い、独り言を言った。