女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



「―――――今夜も一晩、俺にくれんの」

「・・・あげますよ、明日の朝も」

 にっこりと笑ったら、あとは簡単だった。

 狭い部屋だから、布団までは30秒で到達する。彼がテーブルを回ってきて私を押し倒し、待ち望んでいたキスをくれる。だけどそれは、激しいものではなくてゆっくりとした熱くて深い口付けだった。

 彼は少し目を開けた状態で、私の下唇を噛んで舐め、舌を絡ませた。

 大人って、こういうことを言うのかな、と思った。あんなに激しい瞳で見るくせに、まだ余裕があるようなのが癪に障る。

 片思いは俺だけかよ――――――――――

 桑谷さんの言葉が蘇った。私はちょっと悔しくなる。だって・・・今、必死なのは、私だけ。

 思う存分、全てを忘れて抱かれた。今度は本気で彼との行為を楽しめた。そして、どこにも帰らなくていい私の部屋で一緒に眠った。


 それはとても、素敵なことだった。

 天上世界を垣間見て、私はその幸せな気分のままで眠りに落ちた。

 夢も見ないで、彼と抱き合って。


 裸のままで、一つの布団で抱き合ったまま目が覚めた。

 目が覚めた時は一瞬混乱したのだ。あれ?手が動かない、とか思って。それから隣で眠る桑谷さんに気がついて、私はようやく思い出した。

 ああ、そうだ。昨日の夜はとても楽しかった、って。