「―――――今夜も一晩、俺にくれんの」
「・・・あげますよ、明日の朝も」
にっこりと笑ったら、あとは簡単だった。
狭い部屋だから、布団までは30秒で到達する。彼がテーブルを回ってきて私を押し倒し、待ち望んでいたキスをくれる。だけどそれは、激しいものではなくてゆっくりとした熱くて深い口付けだった。
彼は少し目を開けた状態で、私の下唇を噛んで舐め、舌を絡ませた。
大人って、こういうことを言うのかな、と思った。あんなに激しい瞳で見るくせに、まだ余裕があるようなのが癪に障る。
片思いは俺だけかよ――――――――――
桑谷さんの言葉が蘇った。私はちょっと悔しくなる。だって・・・今、必死なのは、私だけ。
思う存分、全てを忘れて抱かれた。今度は本気で彼との行為を楽しめた。そして、どこにも帰らなくていい私の部屋で一緒に眠った。
それはとても、素敵なことだった。
天上世界を垣間見て、私はその幸せな気分のままで眠りに落ちた。
夢も見ないで、彼と抱き合って。
裸のままで、一つの布団で抱き合ったまま目が覚めた。
目が覚めた時は一瞬混乱したのだ。あれ?手が動かない、とか思って。それから隣で眠る桑谷さんに気がついて、私はようやく思い出した。
ああ、そうだ。昨日の夜はとても楽しかった、って。



