燃えるような恋心を持っているわけではない。まだ、この人を全身全霊で欲しているわけではない。彼氏、恋人になってほしいかどうかは判らない。
でも、今はとにかくこの男に抱かれたい―――――――――――
もう一口、ビールを飲んで、私は笑った。
「すみません、私、ヨクジョーしてるんです」
彼の、ビールを口元へ持っていく手が止まった。え、ていう顔で固まっている。
「―――――――え?」
桑谷さんが聞きなおす。それも可笑しくて、私はついにあはははと声に出して笑う。缶ビールをテーブルにおいて、彼を見上げる。
「ヨクジョーですよ、今、桑谷さんに・・・」
ぐいっとテーブルに身を乗り出して、自分から彼の唇に自分のをゆっくりと押し付けた。一瞬彼がハッとしたように体を固めたのが判った。
「・・・欲情、してるんです、私」
少しだけ離して、合せたばかりの彼の唇を見詰める。それは薄くて少しだけ色づいていて、ビールの味がした。
「・・・・・欲しいんです、キスが」
もっと激しいヤツが。
唇から視線を上げたら、欲望に染まった瞳にぶつかった。
彼が缶ビールをテーブルに音を立てて置く。ゆらりと何かの気配が立ち上ったのが判った。



