女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 燃えるような恋心を持っているわけではない。まだ、この人を全身全霊で欲しているわけではない。彼氏、恋人になってほしいかどうかは判らない。

 でも、今はとにかくこの男に抱かれたい―――――――――――

 もう一口、ビールを飲んで、私は笑った。

「すみません、私、ヨクジョーしてるんです」

 彼の、ビールを口元へ持っていく手が止まった。え、ていう顔で固まっている。

「―――――――え?」

 桑谷さんが聞きなおす。それも可笑しくて、私はついにあはははと声に出して笑う。缶ビールをテーブルにおいて、彼を見上げる。

「ヨクジョーですよ、今、桑谷さんに・・・」

 ぐいっとテーブルに身を乗り出して、自分から彼の唇に自分のをゆっくりと押し付けた。一瞬彼がハッとしたように体を固めたのが判った。

「・・・欲情、してるんです、私」

 少しだけ離して、合せたばかりの彼の唇を見詰める。それは薄くて少しだけ色づいていて、ビールの味がした。

「・・・・・欲しいんです、キスが」

 もっと激しいヤツが。

 唇から視線を上げたら、欲望に染まった瞳にぶつかった。

 彼が缶ビールをテーブルに音を立てて置く。ゆらりと何かの気配が立ち上ったのが判った。