「お疲れ様です。どうぞ」
今日もシンプルでラフな格好の桑谷さんは、眩しそうに私を見て、止まったままだった。
「入らないんですか?」
私が首を傾げてそう聞くと、彼はハッとしたように動きだす。
「あ、入る入る。ごめん、驚いた」
「え?」
玄関から歩いて居間へ行く。私の裸足の足が床に引っ付いてぺたぺたと音を立てた。後ろからついて来ながら、桑谷さんがぼそっと言う。
「美人だと思ってたけど、化粧落とすと可愛らしくなるんだなあ~と思って」
「・・・それは、どうも」
本当にさらりと褒め言葉を口にする男だ。ここ数年暴言しか受けてなくて自尊心は萎えまくりだったから、私は嬉しいと感じる以前に恥ずかしかった。
座っててくださいと狭い居間に案内して、台所で作ったご飯を温める。
桑谷さんは珍しげにきょろきょろ見回してから、台所の私に聞いた。
「・・・ここ、何年住んでるの?」
「4年ですかね。・・・うん、4年です」
「その割には・・・・新しい雰囲気が」
私は驚いて、チラリと居間の桑谷さんを見る。・・・するどい。斎の思いでがある家具をほとんど捨ててから買い揃えたとりあえずの家具は、確かに部屋に馴染んでいるとまでは言えなかった。



