急いでまた耳にひっつけた。外野にノイズを感じた。・・・外?
「桑谷さん、外ですか?」
壁の時計を確かめる。夜の9時半過ぎ。
「今仕事終わったんですか?」
『うん、そう。明日はやっと休みなんだ。あー、疲れた。今週は人が足りなくて7連勤だった』
・・・それは大変お疲れでしょう。想像しただけでこっちも疲れた。
「大変でしたね」
私が労うと、彼はハハハと笑った。
『大丈夫、君の声が聞けたし。会うことも出来て、今日はいい日だった』
「えーと・・・良かったですね」
どう返していいかが判らずに平淡にそう言うと、またそんな、他人事みたいに・・・とぶつぶつ言うのが聞こえた。それから一息吸う音がして、静かな声が聞こえた。
『迷惑だったら言って欲しいんだけど・・・今からそっちに行ってもいい?』
ドキン、と心臓が跳ねたのを感じた。
・・・何か、この懐かしい感じ・・・恋愛中、みたいな・・・。
甘い期待がないわけではなかったが、それよりも彼が何を考えているのかが知りたかった。
昼間の食堂を思い出す。投げ出した足、だらりと椅子に寄りかかって、探るような威嚇するような視線で彼は私を見ていた。
危ないことはするな、と言った。
一体何を知っていて、何の牽制をしているのか。



