女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 私も彼をじっと見下ろした。視線が絡みあい、無言の世界が出来上がる。

 緊張で口の中が乾いた。

「・・・危ないことをしていると、思ってるんですか?」

「ああ」

 私はチラリと時計を見る。・・・ああ、行かなければ。もうタイムアウトだ。

 自分のエプロンのポケットからメモ用紙を取り出し、携帯の番号とアドレスを手早く書いて彼の前に置いた。

「時間がありません。・・・また、電話かメールを下さい」

 長い指で挟んで取って、彼はにっこりと笑った。

「喜んで」



 その夜、部屋でお風呂上りにビールを飲んで寛いでいたら、早速電話が掛かってきた。

 携帯を見ると知らない番号。

 少し迷ったが、今日の桑谷さんとの会話は覚えていたから通話ボタンを押した。

「――――はい」

『桑谷です。・・・小川さん?』

 慎重な低い声が流れてきて、そのハッキリした声に思わず携帯を耳から話した。

 すぐ傍で話してるのかと思った・・・ビックリ。

『もしもし?』

「あ、はい。小川です。お疲れ様です」