私も彼をじっと見下ろした。視線が絡みあい、無言の世界が出来上がる。
緊張で口の中が乾いた。
「・・・危ないことをしていると、思ってるんですか?」
「ああ」
私はチラリと時計を見る。・・・ああ、行かなければ。もうタイムアウトだ。
自分のエプロンのポケットからメモ用紙を取り出し、携帯の番号とアドレスを手早く書いて彼の前に置いた。
「時間がありません。・・・また、電話かメールを下さい」
長い指で挟んで取って、彼はにっこりと笑った。
「喜んで」
その夜、部屋でお風呂上りにビールを飲んで寛いでいたら、早速電話が掛かってきた。
携帯を見ると知らない番号。
少し迷ったが、今日の桑谷さんとの会話は覚えていたから通話ボタンを押した。
「――――はい」
『桑谷です。・・・小川さん?』
慎重な低い声が流れてきて、そのハッキリした声に思わず携帯を耳から話した。
すぐ傍で話してるのかと思った・・・ビックリ。
『もしもし?』
「あ、はい。小川です。お疲れ様です」



