片思い。
この、ガタイの良い、やたらと男らしい男性が。
180センチ近い身長の、固い岩のような体をしたこの男が。
・・・・片思い。
頭でじっくり理解すると、笑いがこみ上げてきた。何か、それって可愛い、そう思って。私は口元を押さえて顔を上げる。彼はひょうきんな顔をしていた。
「らしくないかな」
「そうですね。ちょっと面白いです」
あははは、と声を出して笑う。
私の笑顔に彼も笑ったようだった。
時計を見ると、もう時間だった。もう行きますね、と断って立ち上がると、小川さん、と呼ばれた。
「はい?」
「・・・・何か危ないことをしてるんなら、止めとけ」
周りには聞こえないような、低い声だった。ハッとして桑谷さんを振り返る。
椅子にもたれて座り、両手を防水エプロンのポケットに突っ込んだ格好で見上げる、真剣で探るような彼の視線にぶつかった。
「・・・・」
「次は、俺は君を守れないかもしれない」
階段のことを言っているのだと判った。斎に押された私を助けてくれた、あの階段のことを。私の耳が彼の言葉に引っかかる。何かを知っているかのような言葉に、私の緊張した神経が反応した。



