女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 片思い。

 この、ガタイの良い、やたらと男らしい男性が。

 180センチ近い身長の、固い岩のような体をしたこの男が。

 ・・・・片思い。

 頭でじっくり理解すると、笑いがこみ上げてきた。何か、それって可愛い、そう思って。私は口元を押さえて顔を上げる。彼はひょうきんな顔をしていた。

「らしくないかな」

「そうですね。ちょっと面白いです」

 あははは、と声を出して笑う。

 私の笑顔に彼も笑ったようだった。

 時計を見ると、もう時間だった。もう行きますね、と断って立ち上がると、小川さん、と呼ばれた。

「はい?」

「・・・・何か危ないことをしてるんなら、止めとけ」

 周りには聞こえないような、低い声だった。ハッとして桑谷さんを振り返る。

 椅子にもたれて座り、両手を防水エプロンのポケットに突っ込んだ格好で見上げる、真剣で探るような彼の視線にぶつかった。

「・・・・」

「次は、俺は君を守れないかもしれない」

 階段のことを言っているのだと判った。斎に押された私を助けてくれた、あの階段のことを。私の耳が彼の言葉に引っかかる。何かを知っているかのような言葉に、私の緊張した神経が反応した。