あら。
私は座ったままで会釈する。彼は鮮魚の格好のままで、帽子だけを取って手にして立っていた。
「あ・・・お疲れ様です。って、初めて会いましたね、ここで」
ヒョイと肩をすくめて、桑谷さんが前の席に座った。
「俺らは食事でもここは滅多に使わないからな。鮮魚の部屋の奥に机や椅子があるから、そこでご飯も食べるし」
へえー、そうなんだ。そんなことになってたんだ。成る程、確かにあんまり見ないな、鮮魚や青果売り場の人って。
「たまに来て、君を見つけてたんだけど、いつも誰かと一緒だったから声かけなかった」
・・・・ええ、最近スパイ活動してまして、なんて言わないけど、勿論。私はコーヒーに目を落とし曖昧に笑っう。
桑谷さんは持ってきたコーヒーを一口飲んで、目を細めて私を見た。
「・・・深刻そうに話してた時が多かったな」
「そう、ですか?」
「ああ。君は、階段やバックヤードでも色んな売り場の人と話してるよな」
「・・・そうですかね」
「コソコソとして見えた」
「・・・・」
「一体、何してんだ?」
私は黙ってコーヒーを飲む。簡単な言い方だったけれど、本気の質問だと声色で気がついた。



