女神は不機嫌に笑う~小川まり奮闘記①~



 斎の視線がビールを大きく呷る私から、手元の小瓶へと移ったのが判った。

『――――おい!!』

 パン、と音を立てて、ヤツが私の手から瓶を叩き落とす。その衝撃で台所の壁に体ごとぶつかって、私はそのままずるずるとうずくまった。

 ビールの苦い味と、ぐるぐる回る視界に吐き気が襲う。斎が何か叫んでいたけど、耳の中では自分の鼓動しか聞こえてなかった。

 口から涎を垂らしながら、私はにやりと笑った、と思う。

『・・・・バイバイ、最低の男』


 そしてそのまま―――――――――意識を手放したのだ。



 病院の看護師さんが、睡眠薬では人間は簡単には死ねない、と教えてくれた。

 普段のんでいない人間には拒絶反応が出て、吐き出そうとするから無駄にしんどいだけだとも。その顔にはハッキリと同情が浮かんでいて、私がしたバカな行動に彼女が心を痛めているのがわかってしまったのだ。

 それで余計に疑われたわけね、私は、と思った。

 あの強烈な吐き気は拒絶反応だったのか・・・。体って、死ぬのはやっぱり回避しようとするんだなあ、とぼんやり考えたんだった。

 吐きながら倒れた私を見てさすがの斎もビックリし、救急車を呼んだらしい。それから通帳や印鑑を持ち出して逃げたのだろう。私は4日も入院していたから、いつでも返しに来れた筈だ。