「…できた…。」
リンゴのポットパイを出すと甘い匂いが部屋に漏れる。
追いかけるようにして熱も目の前に感じ、あわてて私はオーブンを閉じた。
机の上には赤いリンゴが並んでいた。
我ながら上出来だと、腰に手を当ててうなる。
「…。」
あの日から。
衝撃的なあの日から、一週間経った。
あの日から、ベランダには出ていない。
正直、心の中では嬉しいばかりだった。
この上ない喜びに、私は浸っていた。
でも、同時にあの怖さも襲う。
姉と比べられた日々。
姉が最優先事項だったあの日々。
『もう、お姉さんいないんでしょ?』
楓の言葉も響く。
勇気を出してもいいんじゃないのか。そんな甘い言葉も。
ピンポーン…。
チャイムが鳴った。
私は考えていたことをすべて頭から取っ払う。
そんなことよりも前に進みたい。
「いらっしゃい。」
「こんにちは。」
あの人の言葉を、信じてもいいと思ったあの日から。
