「…まだ、俺。アンタに話あるんだけど。いい?。」
「…はい…。」

私はその言葉に促され、樹さんの部屋へと入った。


こんな夜にいいのだろうか。
ただでさえ樹さんは失恋したばかりに等しい心境だろう。
そんな状況に私がいたら…なんかおかしいんじゃないの?と自問自答を繰り返す。
私が考えあぐねいている表情を見てか、樹さんがほほ笑む。

「別に緊張しなくていい。香奈のことは、もう半年も前に終わってた。」

悲しそうに声を上げる。
苦しいんだろう。今も、私が考えている以上に。
今まで、友達としても頼られてきて、少しだけの希望だってあったはずだった。
でも、その香奈さん自身に、自分とは違う人が好きだと言われてしまえば、希望もくそも無い。

「…アンタには謝っとかなきゃだろ。」
「…え…?。」
「怒鳴ったこと。」

頭をかきむしって、私に目を向ける。
落ちつきのない行動に、やっぱり感情は漏れてる。

「気にしてませんから。」
「気にしてたから、翔が俺に怒ったんだろ。無理すんな。」

ばれてる…。
そうだよね、翔さんが樹さんを怒ってる時点で何かおかしいもんね。
一人で納得して目の前の樹さんに苦笑いを送る。

「…悪かった…。唯一頼られてた俺の居場所までとられんじゃねーかって心配になって。」
「…私のほうこそ軽率でした。ただの近所に住んでるだけの人間が。」
「いや、今回のことはアンタのおかげだから。」

笑って樹さんがいう。

「ありがとな。」