某時刻  香奈

「…香奈。」

私は呼ばれた声に振り向いた。
泣きそうになる瞳をこらえて、綾さんの部屋に向かおうとしていたところに。

「…樹?。」
「…うん。どうしたの。」

いつも以上に覇気のない声。
あれだけ一緒にいた私には分かってしまうのが苦しい。

「…何かあったの?。」
「いや別に、何もない。お前こそどうして?。」

もう言うしかないのだ。
これ以上甘えてどうする?これ以上樹を縛っていてはいけない。
もう、私達は戻るしかないの。

「…浮気してなかったって。すっごい嬉しくて。」
「あの人に言いに来たのか。」

冷たい声が震える。
どうして私の考えがわかるの…。

「綾さんには…いろいろ聞いてもらってて…。」
「他人に話すのかよ。お前らあってまだ数分だろ?ふざけんなよ。考えなくたっていいだろ?俺の所に戻ってくればいいだろ?なぁ、香奈。俺は…。」

その先は聞いちゃダメ。
その先を聞いたら、もう友達にも戻れないかもしれない。


「…俺はお前が…。」
「私、あの人が好きよ。」

樹の言葉をさえぎって言った。




もう、迷わない。