初めて気付いた瞬間



目を開いて、怖い顔を向ける樹さん。
私の足は震えて動くこともできない。

「…答えろよ。」

また言葉が紡がれる。
私は怖くてうつむいた。
どうしてこんな風になってしまうの。

「…答えろって言ってんだろうが!!!。」

昨日までの落ちついた様子は一片も無かった。
ただ、香奈さんへの思いが強すぎて、強すぎて。
何もかもから香奈さんを守りたい意思が強すぎて。


「…。」

すべてがわかっていたから、何も言えなかった。

樹さんは、私が言葉を発しないのに苛立って壁を叩いた。
ドンッと思い音が響く。


「…もう香奈にも近づくな。香奈に何言われたかは知らないが、お前には関係ないことだ。ご近所さん。」


聞いたことのない低い声で、ご近所さんを強調した言い方。

その言葉を最後に、私は玄関から追い出された。

涙なんて流してはいけないのに。
どうして、どうしてこんなに怖いのに。


二人の辛さが、心の中にシミを作っているようだった。