初めて気付いた瞬間

私の驚く顔を見て、香奈さんがあわてていった。

「別に、昔みたいな理不尽な縁談じゃないの。私は今年で21になるけど、相手の人は23。年も近くて、別に脂ぎったおじさんってわけでもない。優しくて誠実な方よ。それにまだ、結婚だってしてないから。」

香奈さんがいった事に少なくとも安心する。

「…まだ付き合って半年。樹と別れてすぐにお付き合いが始まったからね。私にはすごく優しく接してくれる人よ。今はあの人のことちゃんと好きって思えるようになった。」

香奈さんが、悲しそうにまた目を伏せる。
そんな風に思っていても、どうして香奈さんが樹さんのもとに来たのか。

「初めての喧嘩だったの。こんなに私が弱いなんて思ってなかった。…きっと接待だって考えてても、怖くてね。…あの人の首に小さく痣があったことが。」

香奈さんは遠回しに私に現状を教えてくれた。
それを香奈さんは…ずっと一人で抱えていたのか。

「何度も何度もそれが続いて。私もうたえられなくて家を出てきた。一緒に住んでいるのに、違う人の所へ行っちゃうのかと思ったら怖くなった。」
「それで…樹さんの所へ…?。」

香奈さんは小さくうなずく。

「今でも弱いと思ってるわ。半年間、ずっと友人として接してきた。ずるいと思ってる。樹の気持ち知って居ながら。でも、頼れるのは樹しかいないから。だから思い切って言ってみたの。あの人のこと。」

樹さんの気持ちを考えたら、胸が張り裂けそうだった。
付き合っていて、ずっと好きでいた女性から初めて聞かされた男との喧嘩。
それが相手の浮気かもしれないとなれば、樹さんの気持ちはさらに壊れていくだろう。