初めて気付いた瞬間


「それじゃぁ…どうして?。」
「樹とは、別れなきゃいけない理由があってね。」

悲しそうに目を伏せる。
あぁ、きっと、私と同じ。

「…まだ好きなんですか?。」
「…今は…そうね。好きじゃないわ。」
「え?。」

予想外の言葉が私の耳に流れてきて驚く。

「新しく、付き合っている人がいるから。」
「どうして…?別れなきゃいけなかったのは、好きでも別れなきゃいけないからですよね?。どうして…?。」

一息香奈さんが飲みこんで、私の目を見た。

「…誰にも言わないでほしいの。お願い。」
「…はい。」

真剣なまなざしが私をとらえる。
香奈さんの真剣な目が私の中をえぐるように。
はい、としか答えることはできなかった。

「…父親の会社の事業が失敗して、倒産寸前まで行った。でも、ある企業の社長が助けてもいいって言ってくれたのよ。…私が御子息さんと婚約すれば。」
「…!!。そんなのって!?。」
「そう、今じゃ考えられないでしょ?政略結婚よ。」

じゃぁ香奈さんは、もう結婚しているということ?。
私と年も変わらないだろうこの若さで…?。