「…樹はなんもわかってない!!!!!。」

ドアを少しだけ開けたその隙間から聞こえた大きな声。
それはついさっきまで私にも届いていた。

どうしよう…すっかり忘れていた…。

居づらいから部屋の中に入ったのに。
これではまた迷惑をかけてしまう。

静かに玄関のドアを閉めると、廊下のほうから何故かヒールの靴がカンカンと鳴る音がした。
香奈さんが帰ってしまったのだろうか。

「…香奈!!。」

バタンと向かいのドアが開く。
その場所には樹さんが焦った表情で見つめていた。
…そして少しした後、彼は部屋へと入って行った。

「…なんか聞いちゃいけなかったのかな…。」

いや、ダメだろこれは。
聞かなかったことにする。これが一番の最善策。
私はそう心の中にしまいこみ、何事も無かったかのように買い出しに向かった。